宮崎県の口蹄疫被害の中心的な現場のひとつ、
西都市の育牛農家を訪問させていただきました。
広大な田園地帯の緑のなかにポツンポツンと畜産農家が点在。
そして、まだ消毒用の石灰にまみれたがらんどうの畜舎の数々。
・・・道すがらの車中からすでに口蹄疫被害のすさまじさを実感しました。
お話をお聞かせいただき、現場を見せてくださったのは
約250頭の育牛をされ、年間120頭ほどの出荷をされてこられた
西都市では個人経営では大規模な部類の農家でした。
何度もチャンピオン牛もだしてこられたようで、
今回の口蹄疫については細心の注意を払って
外部の人の出入りをなくし、家族も徹底的に注意し
牛舎の消毒等も毎日何回もおこない万全を期してこられただけに、
発症した牛がでたときは相当なショックであられたとのこと。
それでも、6月20日に発症し、翌日と翌々日の2日間で
周囲への感染の拡大を防ぐために250頭全頭殺処分を終えられたとのこと。
当時の絶望的な様子がほんとうに痛いほど伝わってきました。
現在は、まだ補償金もはいらないことや心身を整えるためにも
年内は牛をいれないとのこと。
もとの250頭での生産体制に戻るまでは最速でも3年はかかり、
『借金のことも考えるととてもそんなペースでは戻せまい』とおっしゃる言葉、
『牛をはじめてから25年。はじめて牛のいない正月になりますよ』
と笑われるお顔にも、悔しさと憔悴がにじみます。
また、肝心の感染ルートと防疫に関しては、
今、国も宮崎県も専門家の検証チームをつくって必死に感染ルートの特定や
防疫対策の調査研究をしているようですが、いまだ答えがでないとのこと。
感染ルートは諸説さまざまで、
「人間」「車」「小動物(これは鳥、ねずみ、はてはハエ説も。かなりやっかいです)」そして恐怖の「空気感染説」までいろいろだそうです。
しかし感染ルートが特定できない限り、有効な対策も取りようがありません。
それと、今回宮崎の口蹄疫がここまで拡大してしまったことについては、
『ブタに感染させてしまったことが致命傷だったと思う』とのこと。
ブタは口蹄疫には牛の1000倍のスピードで感染拡大するそうで(驚愕!)
今回の致命的な失敗対応として、
即刻殺処分して埋葬せねばならなかったにもかかわらず、
養豚農家は余剰土地を持たず、口蹄疫で病死したブタの死骸を放置したまま
埋葬場所探しに手間取り、結果被害を拡大させたとのこと。
他県は、この宮崎県の被害を知り、いつ起こるともしれない悪夢に対して
出来る限りの対策を講ずるべきだ、とあらためて痛感してきました。
でないと、被害にあわれた農家のみなさんや
殺処分された牛やブタも浮かばれません。
私も静岡県に帰って即刻”いまできること”に取り組む所存です。
感染ルートがわかっていなくてもできることはあります。
たとえば、殺処分した場合の埋葬場所の事前確保や
畜舎に小動物が入れないような緊急完全隔離手段の研究など、
現場の農家のみなさんとシュミレーションすればいくらでも
今のうちに備えることはあるはずです。
本当に心に重くしっかりと、”ズシン”とくる視察となりました。
この場を借りて、ご説明ご案内をいただいた農家のかた、関係者のみなさんに
こころからの感謝と御礼、そしてお見舞いを申し上げます。
以下は、牛たちの埋葬地にあった無機質な看板の文章です。
「告」
この場所は、口蹄疫にて殺処分された牛の合同埋設地です。
法律により3年間の発掘を禁止いたします。
・・・
看板の隣には、
西都市や農家のみなさんがお立てになった墓標が立てられ、
小さな花畑がつくられ、風車がまわっていました。
救われた思いがしました。
現実の厳しさと、人の情の深さ。
私たちは、この人としての思いや情念を決して忘れてはなりません。
そして、犠牲を決して無にしてもなりません。